(7) リズムの原理

 リズムは音楽の三要素の一つである。その中でも並列的な価値ではなく、最も重要な要素であると考えられている。
 “始めにリズムありき”と言われるのもその故であろう。
 しかし、その一方、これほど実体はおろか、概念さえ不明瞭にされているものもない。むしろ、拍子やリズム型などの周辺部分を論ずることによって、本体論を避けてきたような感さえある。
 しかし、音楽を創造する作曲家の立場にあって、リズム感を誤ることは致命傷にもなりかねない。
 そこで、リズムの原理について思考を巡らしてみよう。
 宇宙の全てにリズムがある。大きくは、太陽や月などの運行といった天体のリズムがあり、地球には、自転・公転による一定のリズムがある。四季のリズムがあり、潮の干潮のリズムがある。自然には自然のリズムがあり、人間生活にも又、リズムがある。その生活を営む人間自体にも又、リズムが存在する。
 即ち、生老病死という一生のリズム、一日の生活のリズム、体内の諸器官のリズム、そして細胞のリズム。それらが干渉し合い、複合的なリズムを構成している。
 そして、音楽のリズムである。 さて、一体、リズムとは何であろうか。
 リズムとは、生命活動のサイクルとも云える。宇宙の生命活動のサイクルは宇宙のリズムであり、人間の生命活動のサイクルが、人間生活のリズムである。
 自然の生命活動のサイクルが自然のリズムであり、人間体内における器官の生命活動のサイクルが、人間体内のリズムである。
 したがって、音楽におけるリズムとは、その音楽の生命活動のサイクルであるといえる。
 西洋には、西洋音楽のリズムがあり、東洋音楽には、西洋とは全く異なった、東洋音楽のリズムがある。ジャズにはジャズのリズムがあり、日本民謡には日本民謡のリズムがある。
 それぞれのリズムが全く異なるのは、それぞれの音楽の生命体の活動サイクルが全く異なるからであり、むしろ当然の事である。
 音楽のリズムを、更に根本的に追求してみよう。
 音楽は、その音楽を創造する人達の生命活動の反映である。したがって、その音楽に表出するリズムは、音楽を創造する人達の生活、即ち、生命活動のサイクルの反映であると見ることができる。
 こういった観点から見れば、西洋音楽のリズムは、西洋人の生活の反映であり、ジャズのリズムは、アフロ・アメリカンの生活の反映である。
 タヒチの音楽のリズムは、そこに生活する原住民の生命活動の反映であり、日本の伝統音楽のリズムは、日本人の生活の反映である。
 さて、話を本論に戻そう。
 リズムの原理については、今まで様々な角度から眺めて見たが、たしかにそう言ったリズムというものは考えられるが、音楽のリズムそのものとは一体何なのだろうか、と言うことが頭を掠めているに違いない。即ち、音楽のリズムの本質とは何かとの問題である。
 今、ここでその本質にまで迫ってゆくのは難問題であり、先に「音楽とは何か」との章で述べたのと同じ方法で、後日、書を改めて追求していきたいと思っている。
 只、「音楽とは何か」と同様、空・仮・中の観点からの問いと叉、名称・本質・特質・作用・影響性等々の角度から論じていかなければ遍頗な論理に終わってしまうと思われるからである。
 ここでは最後に、この音楽のリズムについての、私なりの定義を提示し、後日、この展開をしたいと思う。
 「音楽のリズム」とは「時間の継続の中に生起し、音響現象の中にあっては、エネルギー密集度の周期率として顕在化し、その生命自体を貫く脈動である」と。
 音楽が時間芸術である所以は、この「リズム」によるのではあるまいか。