3.笙の合竹とその解析

 わが国の雅楽管弦合奏に使用されている笙は、中国の南朝における清楽笙(17管)が 唐代に移って宮廷の宴楽(俗楽)の楽器として取り入れられていたものが、やがて奈良 朝時代、唐楽(俗楽)の伝来と共にわが朝に施入されたものと言われています。

 古くは含笙(含、答とも書く)ともいわれ、今日宮内庁楽部では鳳笙と呼ばれていま す。頭初は17管の総てに簧がついていましたが、後世になって也と毛の2管だけ簧を 失ってしまい、現在では15管のみの吹奏により、11種類の合竹(多声和音技法)で、 六調子と太食調呂の総てに対応させています。

 この鳳笙の各管には、十二律名とは異なった独立した名称があり、それぞれに音律(十 二律の中の)が定まっています。また各管ごとに指口があり、吹口から息を送りながら、左手指腹(大・指・中・無の4指):右手指腹(大、食の2指)で指口を塞いで、発音さ せるようになっています。従って笙は本来、和声吹奏に適した多声気鳴楽器だったわけ で、同時に5管或いは6管を吹奏する技法が墨守伝承されてきました。

 一度に総ての音が変わることはなく、必ずいずれかの音を単音として持続して残しな がら、序々に次の合竹に移行する手移りと言う技法が、その響態の特長とされています。

 またその吹奏時の息の使い方に大小の差があり、たとえば首大末小の於世吹きとか、催 馬楽などの付物(歌につける)には、一本吹と言って、1管だけを吹奏することもあり ます。そして音取と呼ばれる、楽曲の序奏部には、合竹と一本吹を併用したバリエーショ ンが、14種類の曲譜となって伝えられています。参考までに笙管の配列図と、各管名 別音律と、各管別に指定された指使い表を示してみます。

                 笙管の排列図

 

  各管名別音律表

 

     《名指受持音孔表》


[譜例・73]

笙管・各別音律表

 譜例(73)は、上記各管音別音律表を五線の譜表上に示したもので、也と毛の2管 の黒符頭は、簧を失って死管となったものです。

 也管のg'''(双調)は、そのオクターブ下の十管にありますので、その不足分は補充 できるとして、毛管のd'' is(断金)は、六調子の楽曲ではあまり必要としませんので、 その影響は極めて少ないものと思われます。

 残り15管の音律から十二律の中で欠如している律は、毛管の dis(断金)とf(勝絶とais (鳬鏡)だけというと言うことが、判明したわけです。しかしこれらの3音律 が、音列構造の上から必要不可欠と思われるものは、fis の呂旋法(下無調)や、cis ・TP �、DJ型(律)と、断金調(dis ) の呂旋法とその平行調の律と、さらにその重属音上の陽音階ぐらいのものですが、幸いにもこれらの曲調は、我が国の4種の呂や3 種の律の楽曲の中には、全く存在しません。従って必要ない音律として意図的に、二つ の管の篝を取り除いたという通説も、なんとなく首肯できるものがあります。

 それではこれら15管を用いて、今日まで伝えられてきた11種類の合竹を、譜表上 に翻刻されたものから、検討を試みることにしましょう。

[譜例・74]

  11種の合竹

 

 我が国の雅楽曲の最高音部として、笙の合竹はその殆どが、所謂密集和音の形態をとっ ています。こうした多声様式が中音部以下にないところに、先人たちの英知を感ぜざる を得ません。その多声部のなかに、たとえ旋律的曲調(音階)以外の音が響いたとして も、上昇倍音としても核音の中に、吸収されてしまう傾向にあり、響態的振幅空間とし ての効果を高めることになっている、と言えます。

 そしてこれらの合竹には、手法的に中心となる管名が与えられています。